回想の海・・九十九里浜

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房州九十九里・・白子の浜
40数年前のひと夏
この白砂に腹ばった青春の日々があった
1964年 大学3年の夏休みだった
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海を背中に一本道を僅かに歩くと
この豪壮な網元の家がある
いわし漁で栄華を極めた
昔日を今に伝える見事な普請である

あの懐かしい夏と何も変わっていない
くぐり戸のついたかんぬき門扉が
モダンになっただけ

ゆうに二階分の高さがあって・・しかし
これで平屋建て
建坪だけでも百坪はあったろうか
あの青春の夏は・・
この広すぎるほどの大きな家で・・
今は亡き老婦人と私のふたりきりだった
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お婆さんひとりでは
グルリと取り巻く70数枚の雨戸を
毎日開け閉めすることさえ叶わない
だからそれをするのが毎朝毎晩私の勤め

庭の隅の井戸から水を汲んで
庭に撒くのも 浜で泳いでもどる午後の日課だった
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この玄関から入った正面に
書院造りの主の部屋があった
お婆さんは・・
私をそこに寝泊りさせた

大きな座卓に座って
毎日読書三昧に過ごした一ヶ月だった
読み疲れれば・・
あの浜で海に浸かり 風に吹かれて
うとうとするのも気持ちのよい午後だった
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プーシキンから始めて
ロシア文学のめぼしいものはほとんど
ここで読んだ

一日333ページはノルマ
読み耽った夏休みの終わりに
それは1万数千ペ^ージになっていた

生涯に一度
忘れることのない夏・・

昨日の午後
この家を見つけて
暫く回想に耽った
あのお婆さんは・・今は亡い

もしお暇があったら・・
ここにも書いたことがあったっけ



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『昔・・この浜に
ウィンチひとつで
自力で這い上がる船があった
朝晩・・船の出入りに手を貸す
漁師の女房たちが集まった

しくじれば船の下敷きになる
全身ずぶ濡れになって
舳先にコロをはめて走った
彼女たちのことを・・
たしか「オッペシ」と呼んでいた

やがて・・
隠れるもののないこの浜で
腰巻一枚で・・うまいこと着替え
何事もなかったかのように
引き上げていった

生活を賭けた
漁師たちの海だった・・』 てつ56

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秋めいた海・・九十九里 
人影もまばらになった白子の浜
サーファーだけが・・

海は変わらない
でも・・浜の営みは
確実に変わっていた

あの船は一艘もいない・・・
by kamadatetsuya1017 | 2006-09-12 02:41 | 自然
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