アイドル

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彼が初めて工房に来たとき、お母さんと一緒だった。
「この子がどうしてもやってみたいというものですから・・試しに体験させたいんですけど・・」
「粘土で怪獣とか作ってみたいの?」
「・・・うぅうん」
お母さんと話してる間、彼は轆轤を挽く大人の仕種をじっと凝視していた。

約束の日、2時間くらいを夢中で粘土に触れてカップを作った。怪獣もどきにはまるで無関心のようだった。
幾つかの作品が焼きあがって暫くしたら、またお母さんと一緒に来た。
「ちゃんとやってみたいって・・ですからお願いできますでしょうか?」
それで彼は教室に入会することになった。

Yちゃん、10歳、小学校4年生である。サッカー少年でもある。
私の教室の最年少、大人にまじって轆轤を挽いている。教室のアイドルになった。
どうやって教えるか、私にも試練だ。大人に使える説明で、使えないものが沢山ある。だから言葉で教えないことにした。手本を見せて繰り返させるのである。何度でも・・・。

幸いというか、彼にはたっぷりと時間がある。52歳で始めた私の陶芸とは大違いだ。
「Yちゃん! ちゃんとしたことやるかぁ・・だから休んでもいいけどやめるなよ。中学生になるころにはメチャ上手くなるぞ・・・!」
「うん」
「じゃ・・来週も来いよ・・ハィ指きりげんまん!」

今夜のYちゃんの轆轤勇姿である。もういっちょ前の構えだ。
高台削りの稽古だったから、やってみせて繰り返していた。

彼は、私のやって見せたことを真似してるはずだったが、ふと気づくと自分で工夫しているのに驚いた。削りカンナの刃先の向け方、見せたこと以上に使っているのである。
何をしようとしているか、ちゃんと理解しているのだ。かなり核心に触れた技術だからである。
この発見は嬉しい。このまま続いてゆけば・・・、期待が膨らんだ夜だった。

「Yちゃん! サッカー選手じゃなくてさ・・陶芸家になるか?」
「・・・うん!」 頼もしいアイドルである。
by kamadatetsuya1017 | 2005-12-22 23:14 | 陶芸
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